This Is America

ニューヨークの食で学ぶ移民の歴史

ニューヨークの歴史は、アメリカの歴史同様、新しい人生と繁盛を求めてここにやって来た移民たちによって紡がれてきたもの。近日この世を去ったアンソニー・ボーデイン氏を偲んで、今回はTablet Hotelsが拠点を置くニューヨークの、幅広く雑多な文化を、彼に習って“郷土食”を通して見つめてみたいと思います。

数多くの異なる文化が混在することで、その鮮やかな個性に花を咲かせて来たニューヨーク。それは、2018年だろうと、1918年だろうと、変わらないこと。ニューヨークの物語はいつの時代も移民の物語であり、誰にとっても、ここで成功することはかけがえのないものだ、と言われてきました。でも、もしかすると、それによって最も利益を得ているのはこの街自体なのかもしれません。なにせニューヨークは、地球上で最も多民族が集まる場所の一つであり、“よそ者”を最もオープンに受け入れてくれる場所でもあるわけですから。「自分と異なる人種や習慣に触れることは、自分をより良い人間に成長させてくれるし、より素晴らしいものを味わうきっかけを与えてくれる」とは、アンソニー・ボーデイン氏が生前によく言っていた言葉です。

ボーデイン氏のように世界中を旅して回ることはできなかったとしても、とりあえずニューヨークまで辿り着ければ、驚くほど幅広い世界の料理に出会えることは間違いなし。彼のカジュアルで気張らないスタイルをお手本に、今回は私たちも、普段ニューヨークの住人がデリバリーやテイクアウト、屋台トラックや立ち食い屋で気軽に口に運んでいる日常的な食べ物に注目。質素ながら深い文化と歴史を背負ったニューヨークのローカルフードを通して、この街がどうしてこんな場所になったのかを味わい学んで見ることに。

可能であれば、クイーンズやブルックリン、スタテン島やブロンクスなど、ニューヨーク市5区すべての食とエリアを体験していただきたいところですが、まずは誰もが訪れるマンハッタンへ。コンパクトな土地の中にぎっしりと多様な文化と食が集まったこの区から、9つの代表的なエリアと定番フード、そしてそんな旅を楽しませる便利なホテルをご紹介します。

 

「四川風パストラミ」

チャイナタウン

Chinatown
(上から時計回りに)「ミッション・チャイニーズ」のカンパオパストラミ、「ノムワー・ティーパーラー」「50 バワリー」「ペキンダック・ハウス」

ちょっと変なメニューだと思われるかもしれませんが、チャイナタウンにあるレストラン「ミッション・チャイニーズ(Mission Chinese)」の“カンパオ・パストラミ”はある種、ニューヨークの食文化の魅力を凝縮した一皿とも言える料理なんです。そもそもは、韓国生まれのシェフ、ダニー・ボーウィンがサンフランシスコで始めたレストランですが、ニューヨーカーにとって馴染みの深いパストラミを四川料理の宮保鶏丁風に調理し、この場所らしさを体現する一皿に仕上げてくれました。実は2013年に、パストラミ・サンドイッチで有名なニューヨークのデリカテッセン「カッツ(Katz’s)」の創業125周年を祝って行われた盛大なパーティーでも、カンパオ・パストラミが振る舞われたのだとか。

アメリカのチャイニーズフードは、私たちアジア人が食べ慣れた中華料理とは随分と異なります。中国人移民がアメリカに持ち込んだ味やスタイルを、時と、場所と、異人種の食習慣と味覚を通してアレンジされたアメリカ独特の料理、と理解するべきでしょう。けれどもちろん、そういったアメリカナイズされた中華しかない、というわけでもありません。例えば、1920年創業の飲茶専門店「ノムワー・ティーパーラー(Nom Wah Tea Parlor)」や、すっかり老舗となった「ペキンダック・ハウス(Peking Duck House)」では、今でもなかなか本格的な味が楽しめます。

この辺りに泊まるなら:50 バワリー(50 Bowery) // 11 ハワード(11 Howard)
 

「四角いスライスピザ」

リトルイタリー&ノリータ地区

Pizza
(上から時計回りに)「プリンスストリート・ピザ」のスクエアスライス、「パブリック」「ルビローサ」「ソルビッロ」

19世紀後半、早期中国人移民とほぼ同時にニューヨークに到着したのはイタリア人。大規模な人数で一気に訪れた彼らは、チーズ市場やシーフード市場を現在のリトルイタリー地区に開き、母国の味をこの新しい土地で再現するようになりました。現代となっては、「ここで一皿30ドルのスパゲティを食べるなんて、観光客向けのぼったくりでしかない」と批判の声も高いけれど、そんな中傷的なレッテルが貼られているからこそ、実はあまり知られていない穴場もあったりするわけです。もちろん、観光客向けの店は多いので、リトルイタリーでイタリア料理を食べるなら、それなりにリサーチが必要がありますが、スライスピザならリスクも低く、中には美食家も唸る逸ピザに出会うことも。

元を辿ればナポリで生まれたピザですが、今や何年もの進化を重ね、“ニューヨーク式ピザ”は伝統的なピザとは随分と異なる独自のものとして変身を遂げました。典型的なニューヨークのピザといえば、スライスで注文し、垂れ落ちる油を気にしながら二つに折って食べるものですが、近年TABLETのスタッフが愛して止まないのは、四角くてふわっと膨らんだシチリア風か、ニューヨーク郊外のロングアイランドで生まれたという、(同じく四角くて)薄くてサクサクとした“おばあちゃん風”のピザ・・・。

失敗を確実に避けるなら、迷わずノリータ(ノース・オブ・リトルイタリー)地区へ。スクエアスライスを食すなら、人気の「プリンスストリート・ピザ(Prince Street Pizza)」がおすすめです。この辺りにはほかにもウォッカピザが有名な「ルビローサ(Rubirosa)」や、本格的なナポリ風ピザが味わえる「ソルビッロ(Sorbillo)」など、ニューヨークのピザの幅広さを体験するのにぴったりの店が溢れています。

この辺りに泊まるなら:パブリック(PUBLIC) // ザ・ノリータン(The Nolitan)
 

「ベーグル&ロックス」

ロウアー・イーストサイド

Bagels
(上から時計回りに)「ラス&ドーターズ」「ラドロー・ホテル」、「カッツ・デリ」のパストラミ、「コッサーズ」

ベーグルが、ニューヨークの初期移民街として栄えたロウアー・イーストサイドに持ち込まれたのは、おそらく19世紀後半。ユダヤ系移民が一気にこの辺りに移住した頃だと考えられています。新鮮さが大事と言われてきたベーグルも、いつしか、ポーランド系移民のパン職人、マーレイ・レンダーが冷凍配送を始めたことにより、全米のスーパーで販売されるようになり、現在のような定番アイテムとなったそうです。

とはいえ、ニューヨークに来て冷凍ベーグルに手を出すのは当然ご法度に近い行為。どのエリアに滞在しても、新鮮なニューヨーク式ベーグルは街のいたる所で見つかりますが、確実に定番スタイルのものを狙うなら、迷わずロウアー・イーストサイドへ。ベーグルのいとこ的存在“ビアリ”で知られる「コッサーズ(Kossar’s)」や、自家製ロックス(ユダヤ式スモークサーモン)に関しては右に出る者がいないと言われる「ラス・アンド・ドーターズ(Russ & Daughters)」をはじめ、20世紀初頭に創業した老舗が今でも営業を続けています。また、ベーグルで知られているわけではないけれど、前出の「カッツ・デリ(Katz’s Deli)」も、1888年の創業以来、ニューヨークのユダヤ移民の食文化を絶えず伝えてきた店です。変にアレンジしていない、本格的なパストラミが食べたい、という人はぜひ、長蛇の列に並ぶ覚悟でお試しを。

ボーナス情報:滞在中主にミッドタウンで行動する予定なら、ガイドブックにも必ずと言っていいほど登場する老舗「エッサ・ベーグル(Ess-a Bagel)」がおすすめ!

この辺りに泊まるなら:ザ・ルドロー・ホテル(The Ludlow Hotel) // ホテル・オン・リビントン(Hotel on Rivington)
 

「ギリシャ系ダイナー」

グリニッチビレッジ

Diner
「ウェイバリー・レストラン」「マールトン・ホテル」

20世紀初頭には、35万人近くのギリシャ系移民がアメリカへと渡って来ました。1996年のとある「ニューヨーク・タイムズ」紙の記事によると、その多くが、農家という形で小型ビジネスの経営経験や、オスマン帝国の幅広い人種との交流といった、アメリカンダイナーの仕事に就くのにぴったりなスキルを持ち合わせていたのだそう。そして、1960年代が訪れる頃には、朝早くから夜遅くまでの長時間(場合によっては24時間)営業で、オムレツやバーガー、ギリシャ風サラダをはじめ多彩なメニューを取り揃えた、ニューヨークの典型的なダイナーといえば、ギリシャ人オーナーが営むものと解釈されるようになりました。

今日となっては、ギリシャ料理というと、そんなカジュアルなダイナーではなく、お洒落な高級レストランでいただく本格的なメニューが思い浮かぶようになりましたが、ウェストビレッジにある老舗「ウェイバリー・レストラン(Waverly Restaurant)」や、その近所の「ワシントンスクエア・ダイナー(Washington Square Diner)」は、昔ながらの伝統と味が今でも楽しめることで人気です。そんな伝統的なダイナーの魅力は、飲み歩きした後や、時差ボケでうっかり目が冴えてしまった午前3時でも、パンケーキからスパゲティ、ミルクシェイクからチーズサンドまで、時間に煩わされることなくフルメニューの選択肢に出会えること。

さあ、ニューヨークへようこそ。あなたの好きなものが、何かきっと見つかるはずです。

この辺りに泊まるなら:ザ・マールトン・ホテル(The Marlton Hotel) // ザ・ジェーン(The Jane)
 

「インドカレー」

キップスベイ地区

Curry
(上から時計回りに)「マルマラ・パークアベニュー」「ハーンディ」のケバブ、「サヒブ」のカレー、「ダバ」

レキシントンアベニュー南部のこの辺りは、南アジア系のレストランが集中していることから、お隣のマレーヒル地区に掛けて“カレーヒル”というニックネームで知られています。1975年、このエリア最初のインド料理店としてオープンした「カリー・イン・ア・ハリー(Curry in a Hurry)」は、今も健在。それから近年まで、主に南インドからの移民が増えると共に、ニューヨークのレストラン界にもインド料理の新しいオプションが続々と登場するようになりました。

最近、多くのランキングでトップの座に登っているのは「ダバ(Dhaba)」。ここに来たら、チキンティッカマサラのような当たり前な料理はパス(そもそも、イギリスで生まれた料理ですし!)。125種類以上ものアイテムを揃えた豊富なメニューが自慢の店だから、ほかではなかなか食べられないものを上手にセレクトして味わってみたいもの。

アンソニー・ボーデイン氏は、「ニューヨークのインド料理で人に薦められるものはない」と発言していたようですが、彼以外の評論家の間では「サヒブ(Sahib)」や「ハーンディ(Haandi)」といったスポットが評判です。

この辺りに泊まるなら:ザ・マルマラ・パークアベニュー(The Marmara Park Avenue) // フリーハンド・ニューヨーク(Freehand New York)
 

「ラーメン」

イーストビレッジ

Ramen
(上から時計回りに)「一風堂」と「モモフク」のラーメン、「米吉」のバーガー、「ザ・スタンダード・イーストビレッジ」

日本人だって、ニューヨークの食に貢献してきた移民グループの一つ。1980年代、日本の経済成長と共にニューヨークに渡った日系人は、ビジネスマンならミッドタウンへ、若者ならイーストビレッジへ向かい、腰を下ろすことに。そして彼らの訪れと共に、スシ屋や居酒屋といった、日本ならではの食文化がそれぞれのエリアに広がりました。今では世界的な人気を誇るラーメンも、この辺りでは当時から食べれたわけです。そして、そんな歴史を誇るかのように、近年ニューヨーク市内屈指のラーメン屋が集まるのはやっぱりイーストビレッジ。

この辺りで老舗といえば、東京の小さなラーメン屋を彷彿とさせる素朴な「来々軒」ですが、グルメな(またはグルメを気取る)ニューヨーカーの間で人気を誇るのは「味噌屋」と「一風堂」。一方、セレブシェフ、デイビッド・チャンが手掛ける「モモフク・ヌードルバー(Momofuku Noodle Bar)」は、“ラーメン版ディズニーランド”とまで表現される、写真映えのする美しい店内とラーメンが魅力です。

しかもイーストビレッジにはバーや飲み屋も豊富。先に飲むにしても、後で飲むにしても、近くでラーメンが食べれるというのは心強い話。でも「ちょっと酔ったし疲れたし、早くホテルへ戻りたい」なんて時は、「米吉」でライスバーガーをテイクアウトする、というオプションもおすすめです。

この辺りに泊まるなら:ザ・スタンダード・イーストビレッジ(The Standard East Village) // ザ・バワリー・ホテル(The Bowery Hotel)
 

「韓国系フライドチキン」

コリアタウン

Korean
「ボンチョン」の定番フライドチキン(上)、「カンホードン・ペクチョン」の焼肉用テーブル(中央、右)、「メイド・ホテル」(下)

ミッドタウンのとある道の1ブロックが“コリアウェイ(Korea Way)”と名付けられたのは1995年のこと。でもこの辺りに韓国系の店やビジネスが展開し始めたのはその20年ほど前の1970年代後半のことでした。コリアタウン自体、そんなに大きくはないので、32丁目の5番街とブロードウェイに挟まれたこの一角を意識して曲がらない限り、見逃してしまうかもしれません。でも、一歩ここに辿り着けば、そこには韓国系の焼肉店や深夜まで営業しているカラオケバー、最近では本国でも見かけるチェーンのベーカリーなどが、びっしりと並んでいます。テーブルに着いてエレガントにディナーを楽しむなら、「ミス・コリア BBQ(Miss Korea BBQ)」や「カンホードン・ペクチョン(Kang Ho Dong Baekjeong)」がおすすめです。でも、私たちTABLET HOTELSスタッフがいつもついつい手を伸ばしてしまうのは、ペーパーボックスで出される“韓国系フライドチキン”こと、ヤンニョムチキン。

定番の二度揚げフライドチキンを思い切り味わうなら、ニューヨークに2000年中盤頃登場したチェーン店「ボンチョン(Bonchon)」 へ。アメリカのチキンは韓国のものより大きいので扱い難いせいか、ニューヨーク店では手羽と骨つきモモ肉がメインです。

この辺りに泊まるなら:メイドホテル(Made Hotel) // アルロ・ノマド(Arlo Nomad)
 

「ハラル屋台のチキン&ライス」

ミッドタウン

Halal
「ザ・バカラ・ホテル&レジデンシズ」、「ハラル・ガイズ」のギロ(右)と定番“チキン&ラム・オーバー・ライス”(左)

ニューヨークに点在するハラル料理の屋台トラックが、いつどうやって現在のような生態系に至ったのかは謎ですが、最近ではニューヨークのガイドブックなどでもB級グルメの定番として紹介されている通り、とにかく人気で数も多いんです。中でも有名な「ハラル・ガイズ(Halal Guys)」は、もともとはホットドッグを売っていた屋台カートが、1990年代初期に数を増やしていたイスラム系のタクシー運転手が手軽に食べられるものを、と路線変更したことで始まったビジネス。今や元祖となる6番街と53丁目の角のトラックはもちろん、全米に店舗展開するまでに成長しました。一方で、ハラル屋台はギリシャのギロピタ屋台をヒントにしたもので、定番のチキン&ライスにかける白いソースはザジキソースがインスピレーションになった、と言い張る声も。

どちらにしても、ニューヨークのハラル料理の商売を80年代から90年代にかけてリードしてきたのは、エジプト系と南アジア系の移民人口。以来、ハラル・ガイズ同様フランチャイズ化に成功した「ラフィキズ(Rafiqi’s)」のような有力なトラックのほか、「トリニー・パキボーイズ(Trini Paki Boys)」 や「サミーズ・ハラルカート(Sammy’s Halal Cart)」といった(今のところは)まだ、ニューヨークでしか味わえない屋台も残っています。

この辺りに泊まるなら:バカラホテル&レジデンス(Baccarat Hotel & Residences) // バイスロイ・ニューヨーク(Viceroy New York)
 

「タイ風ヌードル」

ヘルズキッチン地区

Thai
「キンプトン・インク48」、「ピュア・タイ・クックハウス」のヌードル(右)とスチームバオ(左)

あえて“タイタウン”とは呼ばれていないけれど、この10年ほどでタイ料理の店がひょこりひょこりとオープンしては定着化し続けているエリアがこちら、ミッドタウン西北部に位置するヘルズキッチン周辺。アメリカにおけるタイ料理は、2000年代前半に、タイ政府が(世界各地の味覚に関する市場調査まで行った上、)各国にタイレストランの数を増やそうと意識的な努力を投じた、というユニークな歴史があるんです。結果はもちろん、大成功。全米におけるタイ系アメリカ人の人口はほんの30万人程度ながら、今やタイ料理店の数は5,300軒にも及ぶのだとか。ちなみにこの比率は、メキシコ系アメリカ人人口とメキシコ料理店のそれの10倍以上・・・。

というわけで、近年のヘルズキッチンでは犬も歩けばタイレストランに当たるといったところ。しかもここは、地代の高価なミッドタウン。どこもなかなか美味しいお店ばかりです。最近人気が高いのは、自家製麺が自慢の「ピュア・タイ・クックハウス(Pure Thai Cookhouse)」の、カニと豚肉入りの焼きそば風ヌードル。ほかにも、近所の住人やビジネスピープルが通う「ウォンディー・シャム(Wondee Siam)」や「パム・リアルタイフード(Pam Real Thai Food)」、「デール・クルン(Der Krung)」、イサーン地方の料理に出会える「ラーブ・ウボル(Larb Ubol)」、「ズーブジブ・タイ(Zoob Zib Thai)」などなど、選択肢は豊富。

美味しい食事のオプションが多すぎて困る、という方、申し訳ございませんが、まずは1軒試してみてください。

この辺りに泊まるなら:キンプトン・インク48(Kimpton Ink48) // ザ・タイム(The Time)